「トウマさんですか?」
受話器から久しぶりに聴いた名前に、記憶が遡りたどり着いたのが20代前半の記憶だった。
「はい、どなたですか?」
「稲垣といいます。ユウキのお知り合いの方ですよね?」
年配女性の声だったが、ユウキという響きに思い当たる名前はすぐに顔と結びついた。
「10年前くらいに数回お会いした程度でしたが・・・」
「ユウキも、そう言っておりました。急なお願いで申し訳ありませんが、ユウキの入院中に会ってやってもらえませんか?」
突然だったので驚きは隠せなかった。
「あ、はい。ご病気なんですか?」
「はい、芝病院にお世話になっています。場所はご存知でしょうか?」
「ええ。」
「それでは、お待ちしております。」
静かに電話が切れた。少し呆然としていた。
ユウキ、どうして。
そう頭の中で繰り返していた。
ユウキと初めて出会ったのは、21歳の時でユウキはまだ18歳だった。
その頃、良く飲み歩いてた友人の企画で、湾岸の花火大会に数人と集まって観に行こうと誘われ、その中の1人にユウキがいた。当時では珍しいラクロスのサークルに所属している大学生だった。
ユウキのことは会ったときから気になっていた。そのことを思い出していた。
「はじめまして、ユウキです。」
「あっ、ども、トウマっていいます。よろしく。」
咄嗟に口をついて出てしまった名前。
「ふ〜ん、トウマさんっていくつ?」
なんとなく気づかれた雰囲気だったが、
「21、ユウキくんは?」
「18、ユウキでいいよ、年上なんだから。」
物怖じしない言い方が妙に可愛げがあって好かれるタイプだ。現に何人かは、ユウキ目当てでこの集まりに参加しているメンバーもいたらしいと後になって知った。
そんな中、ほぼユウキを独占していた。タイプの話とかサークルの話、交遊関係や恋愛の面倒臭い相談を聞いては頷いていた。話そっちのけで目はユウキの太い腕や厚い胸板、笑いながら話す目元を見てニタニタしてたのを思い出す。
「んで、ラクロスってキツいんっすよ。見てくださいよ、この足。」
短いショートパンツを更に捲り上げて太ももを見せた。
「触っていいっすよ。慣れてるから。」
ホントに慣れてる様子でユウキは笑いながら、ユウキに手首掴まれ太ももに触れた。
「固いっしょ?走ってばっかでこんなだよ。」
ドキドキした。してやったり顔のユウキ。今思うと、しがない思いしか残っていない。
「また、会えるかな?ってか、また会おうね。」
そう言うと、ユウキは他のメンバーに半ば強引に引っ張られカラオケを熱唱していた。
最初はこんな出会いだった。